Recipe #13 はじめての経営学 #3(マーケティング)

 経営学には8つのジャンル(分類)があります。そのうちの1つが「マーケティング」です。 そしてマーケティングとは『ほったらかしでも売れる仕組みをつくる活動』のことです。

(※ここでいう「ほったらかし」とは、無理な売り込みや宣伝活動をしなくても良いという意味です)

【経営学の8つのジャンル】

1.マーケティング (Marketing)‟ほったらかしでも売れる仕組みをつくる活動„                                        2.生産管理 (Production)                                           3.ロジスティクス (Logistics)                                         4.財務・会計 (Accounting & Finance)                                     5.組織・人事管理 (Organization & HRM)                                   6.情報管理 (Information)                                          7.経営戦略 (Strategy)                                            8.リーダーシップ (Leadership

目次

企業のスタンスを決める「反応型」「予想型」「創造型」

「現代マーケティングの父」と呼ばれるフィリップ・コトラー(Philip Kotler)は、著書『マーケティング・マネジメント』の中で、「お客様のニーズに対して企業がどういうスタンス(向き合い方)で勝負するのか」という根本的な方向性を、以下の3つに分けて解説しています。

反応型マーケティング(Responsive Marketing): すでに顧客によって言葉にされている顕在的なニーズを見つけ出し、それにストレートに応えること。

予想型マーケティング(Anticipative Marketing): 社会の変化などを観察し、近い将来に顧客が抱くであろうニーズを先読みして動くこと。

創造型マーケティング(Creative Marketing / Need-shaping Marketing): 顧客自身も気付いていない(自ら求めようとはしない)が、提示されれば熱狂するような解決策を発見し、市場そのものを作り出すこと。

出典:『コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント[原書16版]』丸善出版 2022年

反応型マーケティングの事例

【すでにあるニーズ(困りごと)に、ストレートに応える】

事例: ノンアルコールビール(キリンフリーなど)

顕在化していたニーズ: 「飲み会には参加したいけど、車で来ているから飲めない」「明日の朝が早いから今日はお酒を控えたいけど、雰囲気は楽しみたい」

解説: お客様がすでに口に出して困っている「明確なニーズ」に対して、「アルコール0.00%のビールテイスト飲料」というドンピシャの解決策を提供しました。この時、営業マンが「どうか買ってください!」と頭を下げて売り込む必要はありませんよね。お客さんの「まさにそれが欲しかった!」という明確なニーズにドンピシャでハマっているため、お店の棚に置いておくだけで、お客さんの方から勝手に(ほったらかしで)手に取って買ってくれるのです。 しかし、最も手堅く売上を作れる反面、ライバル他社もすぐに真似できるため、あっという間に「アサヒ」「サントリー」「サッポロ」が参入して激しいシェア争い(価格競争)になりました。

予想型マーケティングの事例

【社会の変化から、これから生まれる「未来のニーズ」を先読みする】

事例: コンビニの「サラダチキン」や高タンパク食品

予想した未来のニーズ: 「これからフィットネスブームが来る。健康志向が高まり、手軽に美味しくタンパク質を摂りたい人が爆発的に増えるはずだ」

解説: まだお客様が「コンビニで鶏肉の塊を買ってかじりたい」と口に出す前に、社会の健康トレンド(高齢化や筋トレブーム)の兆候をデータから読み取り、先回りして商品を棚に並べました。結果として、ダイエット層やトレーニーの心をガッチリと掴み、コンビニの定番商品という巨大市場をいち早く独占しました。

「予想型」は「反応型」よりも「ほったらかし」が長続きする

「反応型(ノンアルコールビールなど)」もほったらかしで売れますが、すでにあるニーズに応えるためライバルもすぐに気づき、あっという間に真似されて「ほったらかし」のボーナスタイムが終わってしまうという弱点がありました。 しかし「予想型」は、ライバル企業が「え?なんでコンビニで冷たい鶏肉の塊なんか売ってるの?」と油断している間に準備を進めるため、自社だけが「ほったらかしで爆売れする期間(先行者利益)」を長く独占できるという圧倒的なメリットがあります。 つまり、予想型マーケティングとは、お客様自身がまだ「これが欲しい」と気づいていない場所に先回りして、あらかじめ理想の商品を置いて待ち構えておくという、非常に高度な『ほったらかしでも売れる仕組み』なのです。

創造型マーケティングの事例

【お客様自身も想像していなかった「未知のニーズ」を企業から生み出す】

事例: ソニーの「ウォークマン」(※現代ならAppleのiPhoneでも可)

生み出した未知のニーズ: 「音楽を外に持ち歩いて、歩きながら聴くという新しいライフスタイル」

解説: 当時の世の中の人は誰一人として「歩きながら音楽を聴きたい」なんて言っていませんでした(カセットデッキは部屋に置いて聴くのが常識だったからです)。つまり、お客様に「ウォンツ」を聞いても絶対に生まれない商品でした。企業側から「こういう新しい生活はどうですか?」と提案し、世界中を熱狂させて新しい常識(市場そのもの)をゼロから創り出しました。これこそがマーケティングの最高峰(イノベーション)です。

創造型が「ほったらかし」でも売れる3つの理由

「新しい常識」になり、もう元に戻れなくなるから :ウォークマンやiPhoneを一度体験した人は、「歩きながら音楽が聴ける」「画面を指で直感的に操作できる」という新しいライフスタイルの虜になり、「もうこれがない生活には戻れない!」と感じます。一度この状態(生活のインフラ)にしてしまえば、企業が必死に売り込まなくても、お客様の方から進んで買い求めてくれます。

お客様が「無給のトップセールスマン」になるから :自分でも想像していなかった感動(未知のニーズの充足)を与えられたお客様は、「これ、めちゃくちゃすごいよ!」と家族や友人に熱っぽく語り始めます。企業が広告費を使って宣伝しなくても、お客様の熱狂的なクチコミによって、ほったらかしでも勝手に波及していく現象が起きます。

完全に「ライバル不在の独占市場」になるから :世の中にまだ誰も気づいていない価値をゼロから生み出した最初の企業(パイオニア)になるため、発売した瞬間はライバルが世界中に誰もいません。「この新しい生活が欲しいなら、うちから買うしかない」という、価格競争とは無縁の最強のほったらかし状態を作り出すことができます。

コンビニ、スーパー店舗で実行できるマーケティングの限界

反応型(現場の基本): 「棚の定番商品が減ってきたからバックヤードから補充しよう」「『〇〇番のタバコください』と言われたからサッと出そう」といった、目の前の明確な要求に100%応える基本のオペレーション。

予想型(現場のプロの仕事): 「来週からいよいよ夏本番の暑さになるから、いまのうちにスポーツドリンクやミネラルウォーターの『フェイス数(陳列幅)』を広げて、在庫を厚めに持っておこう」という、権限の範囲内でできる売場づくりの先回り。

創造型(現場の管轄外): iPhoneのような革新的な商品を店舗で作ることは不可能。これは「本部の仕事」と割り切る。

コンビニやスーパーの店舗で働くスタッフ(店長クラスであっても)が、現場の権限で実行できるのは「予想型」までです。「創造型(新しいライフスタイルを生み出すような商品の開発)」は、本部のR&D(研究開発)部門や経営陣の仕事になります。しかし、「予想型」のマーケティングであれば、現場の売り場責任者でも完璧に実行できます。
「今年の夏は例年より暑くなる予報だから、ミネラルウォーターの『フェイス数(陳列幅)』を広げて在庫を厚くしておこう」
このような計画を立てて実行している時点で、あなたはもう、誰が何と言おうと立派な「マーケター」なのです。

Recipe #13 まとめ

 今回解説したコトラーの3つのアプローチは、どれが一番優れているかという単純な話ではありません。お客様のニーズに対して、企業がどのスタンスで挑むかの違いです。

  • 反応型は、目の前にある困りごとを確実に解決する「確実だけど競争が激しい」基本の型。
  • 予想型は、これから生まれる未来のニーズを先読みする「先見の明が必要」な独占の型
  • 創造型は、未知のライフスタイル(新しい価値)を提案し「常識を覆すイノベーション」を起こす究極の型

アプローチの難易度は違えど、目指しているゴールはすべて同じです。 それは、お客様の「悩みや欲求(ニーズ)」と、自社の「解決策(商品)」を完璧に一致させ、『ほったらかしでも売れる仕組みをつくる』こと。

まずは目の前にある「反応型」のニーズに全力で応え、着実に売れる仕組みの土台を作る。そして、少しずつ社会の変化を観察して「予想型」や「創造型」へと企業のスタンスを進化させていく。これこそが、ビジネスを長く力強く生き残らせるマーケティングの真髄なのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次