Recipe #19 はじめてのマーケティング#8(産業財マーケティング)

 経営学には8つのジャンル(分類)があります。そのうちの1つが「マーケティング」です。 そしてマーケティングとは『ほったらかしでも売れる仕組みをつくる活動』のことです。

(※ここでいう「ほったらかし」とは、無理な売り込みや宣伝活動をしなくても良いという意味です)

【経営学の8つのジャンル】

1.マーケティング (Marketing)‟ほったらかしでも売れる仕組みをつくる活動„                                        2.生産管理 (Production)                                           3.ロジスティクス (Logistics)                                         4.財務・会計 (Accounting & Finance)                                     5.組織・人事管理 (Organization & HRM)                                   6.情報管理 (Information)                                          7.経営戦略 (Strategy)                                            8.リーダーシップ (Leadership)

目次

産業財マーケティングと「BtoB」の広告戦略

「Recipe #13」~「Recipe #18」までで説明してきたマーケティングは、主に「消費財マーケティング」と呼ばれる領域です。

マーケティングの領域には、大きく分けて以下の2つがあります。

  • 消費財マーケティング(Business-to-Consumer / 略称:BtoC): お客様が「個人(一般消費者)」
  • 産業財マーケティング(Business-to-Business / 略称:BtoB): お客様が「企業」

対象が個人から企業に変わっても、産業財マーケティングの土台となる考え方は消費財マーケティングと同じです。「STP(作戦)をやって、4P(具体的な動き)を展開する」という基本の型に変わりはありません。

BtoB企業は、なぜ一般向けのCMを打つのか?

 普段テレビやYouTubeを見ていると、一般消費者向けではなく、対企業向けの広告が流れているのを見たことがあると思います。「鹿島建設(ゼネコン)」や「ミネベアミツミ(超精密部品メーカー)」、他にも「AGC(ガラス)」や「村田製作所(電子部品)」などのBtoB企業のCM広告です。

では、なぜ「ミネベアミツミ」や「AGC」などのBtoB企業(企業間取引)が、一般の消費者が観ているテレビやYouTubeに、わざわざ莫大な費用をかけて広告を打つのでしょうか?

これには、強烈な3つの裏目的(戦略)が隠されています。

1. 優秀な人材を集めるため(採用戦略)

 これが一番の目的です。BtoB企業は一般への知名度が低くなりがちですが、優秀な学生(システム2を回せる人材)を確保するためには、まず「知ってもらう」必要があります。

さらに重要なのが、「学生の親」へのアプローチです。 「ミネベアミツミから内定をもらったよ!」と言ったとき、親が「テレビでやってるあの一流企業ね!安心だわ」と納得してくれる状況(システム1の安心感)を作るための、高度な採用戦略なのです。

なぜ「学生の親」へのアプローチがそこまで重要なのか? たとえば、BtoB企業の採用担当者が一生懸命、学生に対して「ウチの技術力(Product)」や「将来性・待遇(Price)」をシステム2(論理)でプレゼンし、見事学生が「この会社に入りたい!」と決意して内定をもらったとします。 しかし、学生が家に帰って親に報告した際、親がその企業を知らないと「聞いたこともない部品メーカーなんて辞めなさい。誰もが知っている〇〇食品や〇〇銀行にしなさい」と反対し、学生が泣く泣く内定を辞退してしまうケースが多発するのです。 これが採用業界で恐れられている「親ブロック」です。この親ブロックを未然に防ぐために、企業は莫大な費用をかけてCMを打つのです。

2. 社員の離職率を下げるため(インナーマーケティング)

 現場で泥臭く鉄骨を組んでいる鹿島建設の社員や、工場でミリ単位の部品を削っているミネベアミツミの社員が、お正月に家族とテレビを見ている時に自社のカッコいいCMが流れる。 すると、家族から「パパの会社、すごいね!」と言われます。これが社員の誇りを高め、離職率を下げ、過酷な現場のモチベーションを維持するための最強の燃料になるのです。

3. BtoBの商談を有利にするため(営業支援)

 BtoBの取引相手は「企業」ですが、最終的にハンコを押すのは「人間」です。 まったく名前も知らない部品メーカーから提案されるのと、「あ、テレビCMでよく見るミネベアミツミさんですね」という状態から商談がスタートするのとでは、最初の「安心感(システム1の警戒心の解除)」が天と地ほど違います。 CMは、自社の営業マンが商談をスムーズに進めるための「地ならし(お堀づくり)」でもあるのです。

(※おさらい:人間の脳にある2つの思考モード)

  • ① システム1(ラクな脳): 直感・オートモード。無意識で素早く動けるが、深く考えるのを嫌がり「適当な作業」に逃げやすい。(例:CMで知っているから安心!)
  • ② システム2(めんどくさい脳): 論理・マニュアルモード。分析や構造化ができるが、激しく疲労するため人間は無意識に使うのを避ける。(例:企業の将来性や待遇を比較・分析する!)

まとめ:BtoBもBtoCも「誰の心を動かすか」は同じ

 一見すると私たち一般人には関係のなさそうなBtoB企業のCMですが、その裏には「就活生の親ブロックを防ぐ(採用)」「家族に誇ってもらう(離職防止)」「商談相手の警戒心を解く(営業支援)」という、極めて緻密な作戦(STP)と具体的な動き(4Pのプロモーション)が隠されていました。

対象が「個人(BtoC)」であっても「企業(BtoB)」であっても、マーケティングの本質は全く変わりません。 それは、「ターゲット(T)が何を求め、何に不安を感じているのかを想像し、直感(システム1の安心感)と論理(システム2の納得感)の両方からアプローチして『ほったらかしでも選ばれる仕組み』を作ること」です。

これは、食品小売業(コンビニ、スーパーなど)の売り場でも同じです。 なんとなく商品を並べるのではなく、「このPOPを見たお客様はどう感じるだろうか?」「この陳列で安心してもらえるだろうか?」と、相手の心理を先読みして仕掛けること。

テレビやYouTubeの向こう側で一流のBtoB企業がやっている高度な戦略も、私たちが現場で汗をかきながら展開している4Pも、根っこにある「人間の心を動かすメカニズム」は確実に繋がっているのです!

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