なぜ現場と上層部はでは、かみ合わないのか?
結論からお伝えします。現場と上層部でかみ合わない理由は、大きく以下の2つです。
結論1:双方が「操作的定義」をしておらず、上層部が曖昧な指示を出しているから
結論2:「部分最適」「セクショナリズム」「官僚制の逆機能」という組織の構造的欠陥(エラー)が働いているから
この結論の真意を解説する前に、まずは人間の脳に隠された「システム1」と「システム2」という重要な前提からお話しします。
人間の脳を支配する「二重過程理論(システム1・システム2)」
「二重過程理論(システム1・システム2)」とは、心理学者のキース・スタノヴィッチとリチャード・ウェストが命名・提唱し、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』(早川書房・2014年)によって世界中に普及した理論です。
人間の思考には、以下の2つのモードが存在します。
- 「システム1」: 直感的、自動的、感情的な思考。労力を必要とせず、常にオートモードで動いている状態。(脳がラク)
- 「システム2」: 論理的、分析的、計算的な思考。脳に強い負荷がかかり、エネルギー(糖分)を激しく消費するモード。
実は、人間の脳は体重のわずか2%ほどの重さしかありませんが、体全体のエネルギーの約20%を消費する「大食い」な臓器です。 そのため、脳は生き残るための防衛本能として、できるだけエネルギーを消費する「システム2」を使わず、低コストな「システム1」で済ませようとする性質を持っています。これを心理学では「認知のけち(認知的倹約家)」と呼びます。
結論1:双方が「操作的定義」をしていない
「操作的定義」をしていないとは、すなわち「言葉が測定可能な状態になっていない」ということです。
例えば、上層部が「キレイに掃除しといて」と指示を出し、現場が「キレイに掃除した」と報告したとします。しかし、双方の頭の中にある「キレイな状態の認識(基準)」が数値化・具体化されていないため、必ず「全然キレイになってないじゃないか!」「いや、やりました!」というすれ違いが起きます。 これが、操作的定義の不在による「かみ合わない」現象の正体です。
結論2:組織を崩壊させる3つの構造的欠陥(エラー)
さらに、組織が大きくなると、人間の「認知のけち」が引き金となり、以下の3つの構造的欠陥(エラー)が発生します。
1. 部分最適(Suboptimization)
2. セクショナリズム(Sectionalism)とサイロ・エフェクト
3. 官僚制の逆機能:「目標の置換」
例えば小売業において、本来は「顧客を喜ばせて利益を上げるため」の発注だったはずが、「毎日欠かさず機械に数字を入力すること(自分のルール)」が目的にすり替わってしまう。これをマートンは「訓練された無能(Trained Incapacity)」という強烈な言葉で批判しました。本来の目的から逸脱しているため、現場と上層部の会話は永遠に平行線をたどります。
なぜ人は「自分の部署(ルール)」に引きこもるのか?
では、なぜ人はこんなにも視野が狭くなってしまうのでしょうか? 「会社全体の物流、資金繰り、他部署の状況」まで俯瞰して考えるのは、脳にとってとてつもないエネルギーを消費する「超・システム2」の重労働だからです。
人間の脳は「認知のけち」です。自己防衛のために「とりあえず自分の部署の、目の前の仕事(ルール)だけやっていればOK!」という「システム1(省エネモード)」に逃げ込んでしまうのです。
かつての私の職場で起きた悲劇も同じです。 社長は「売上データ」の部署(サイロ)にいて、私は「店舗空間」の部署にいました。人間は、脳が全体を見る労力(システム2)を嫌がるため、自分のいる部署の仕事がすべて(部分最適)になってしまう生き物なのです。
Recipe #3 まとめ:精神論を捨て、業務を「レシピ化」せよ
部署間の対立や会話がかみ合わないのは、社員の性格が悪いからでも、やる気がないからでもありません。 人間の脳が『システム2(全体最適)』を嫌がり、『システム1(部分最適)』に逃げ込むという【構造的な欠陥(エラー)】が原因です。
だからこそ、違う部署(上層部と現場)同士が会話をするためには、曖昧な言葉(精神論)を捨てなければなりません。 「操作的定義(例:発注=在庫のコントロール)」を用いて認識を強制的にすり合わせる【翻訳作業】を行い、誰もがシステム1のままでも回せる『業務のレシピ』を作ること。
これこそが、組織の構造的欠陥(エラー)を解消し、真の競争優位を確立するための唯一の解決策なのです。

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