なぜ組織内で正しい意見が通らないのか?
なぜ組織内で正しい意見が通らないのか?
なぜ組織内で「正しい意見」が通らないのか?
職場でこんな理不尽な経験はありませんか?
『バイトのA君が出した意見と、支店長(Bさん)が出した意見がある。両者が全く同じ内容、あるいは客観的に見て明らかにA君の意見のほうが正しい場合でも、なぜか支店長Bさんの意見だけが評価され、そちらが通ってしまう。』
このような現象が、私たちの現場では往々にして起こります。私はこのバグ(組織の構造的欠陥)を「発言者のフィルター現象」と名付けました。
私たち人間は、社会的動物として進化する過程で「群れのリーダーや知識人の判断に従うこと」が生存確率を高める効率的な戦略でした。そのため、現代の組織でも「偉い人が言っているから正しいだろう」というバイアス(無意識の思考の偏り)がかかってしまいます。
具体的には、以下の4つの原因が絡み合っています。
- 【ヒューリスティック(思考の近道)】が働いているから(※バイアスあり) 私たちは、すべての情報をイチから論理的に分析すると脳が激しく疲労するため、無意識にショートカット(手抜き)をして判断します。これを「権威ヒューリスティック」と呼びます。「専門家や上の人間が言うなら、自分で考えるより信じたほうがラクだし、おそらく正解だろう」と、思考を放棄してしまうのです。
- 【ハロー効果】が効いてしまっているから(※バイアスあり) ある対象を評価するときに、目につきやすい特徴(役職や過去の実績)に引きずられて、他の側面(意見そのものの内容)まで歪めて評価してしまう心理現象です。「支店長が言うことだから、意見も素晴らしいはずだ」という強烈なバイアスが働いています。
- 【社会的証明】が働いているから(※バイアスあり) 人は「周囲からの信頼が厚い人や、すでに成功している人の行動や発言=正解」として採用しやすい傾向があります。アルバイトのA君は組織内で「まだ何者でもない」と見なされているため、どれほど論理的に正しい言葉でも、重みが付与されない状態なのです。
- 【組織の構造的な問題】責任を取りたくないから(※バイアスなし) 実は、この現象が起きる背景には、受け手側(上司など)の「責任を回避したい」という心理も強烈に働いています。 ・A君(バイト)の案を採用して失敗した場合:「なぜバイトの言うことを聞いたんだ!」と自分の責任を問われる。 ・支店長の案を採用して失敗した場合:「支店長が決めたことだから仕方ない」と言い訳ができる。
このように、多くの組織では「内容の良し悪し」よりも「失敗したときの言い訳の立ちやすさ」で意見が選別されてしまうのです。
ブラインド提案
この絶望的な状況を打破する、ひとつの明確な答え(仕組み)があります。それが、発言者の名前を隠してアイデアを募る「ブラインド提案(ブラインド審査)」です。
ブラインド提案とは、「誰が言ったか」という属性情報を完全に排除し、「何が言われたか」という内容のみで評価を行う手法です。
・オーケストラの「システム1(偏見)」を破壊したカーテン 1970年代まで、アメリカの主要なオーケストラの団員は「ほぼ100%が男性」でした。審査員たちは「男性の方が体格が良いから力強い音が出る」「女性には一流の演奏は無理だ」という強烈なシステム1(思い込み・偏見)に完全に支配されていたからです。
そこで、この「優秀な人材を取りこぼす」という組織のバグを修正するために導入されたのが、審査員と演奏者の間に「分厚いカーテン(ついたて)」を引くことでした。
・カーテン=「強制システム2発動装置」 姿が見えない(ブラインド状態)になると、審査員は「誰が弾いているか(システム1)」で判断する逃げ道がなくなり、純粋に「音のクオリティ(深く考えるシステム2)」だけで極限まで集中して評価せざるを得なくなります。 結果、何が起きたか? 女性の合格率が爆発的に上がり、現在では多くのオーケストラで女性団員が劇的に増えるという、歴史的な大改革(全体最適)が起きたのです!
実例:ブラインド提案を導入している企業・組織
現代のビジネスの世界でも、主に「社内アイデアソン」「外部コンペ」「採用活動」の3つの場面でこの仕組みが導入されています。
- 官公庁・自治体(プロポーザル入札) 実は、ブラインド提案が一番厳格に行われているのは「行政」です。新しい公共施設やシステムを作る際、癒着や「あそこは大企業だから安心だろう」というシステム1によるえこひいきを防ぐため、企業名やロゴをすべて黒塗りにして企画書だけで審査します。
- ソニーグループ(社内起業コンテストなど) 先進的な企業が行う「新規事業アイデアコンテスト」の1次審査などで採用されるケースがあります。「若手の斬新なアイデア」が、頭の固いおじさん達の「肩書きバイアス」によって潰されるのを防ぐためです。
- ユニリーバ・ジャパン(ブラインド採用のトップランナー) 提案ではなく「人材の評価」ですが、構造は全く同じです。採用において、履歴書から「顔写真」「性別」「年齢」を排除した「ブラインド採用」を導入。面接官の「顔が好み」「若いから体力がありそう」といった無意識のシステム1(偏見)を破壊し、純粋なポテンシャル(中身)だけで評価します。

Recipe #4 まとめ:なぜ組織内で正しい意見が通らないのか?
「なぜ組織内で正しい意見が通らないのか?」 それは「発言者のフィルター現象」という、【ヒューリスティック】【ハロー効果】【社会的証明】からなる先入観や偏見のバイアスがかかっているからです。そしてもう一つ、失敗時の言い訳を用意したいという【組織の構造的な問題(責任回避)】があるからです。
これらを根本から解決する仕組みこそが、発言者の名前を隠してアイデアを募る「ブラインド提案」です。 「誰が言ったか」というラクな判断に逃げる人間の弱さ(認知のけち)を前提とし、「何が言われたか」に強制的に向き合わせる仕組み(レシピ)を作ること。これこそが、組織を正しく回すための条件なのです。

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