はじめての「経営戦略」 #2(3つの戦略レベル)| Recipe #26

 経営学には8つのジャンル(分類)があります。そのうちの1つが「経営戦略」です。 そして経営戦略とは『「我々の事業は何か(誰にどんな価値を届けるか)」という不変の判断軸を固く共有し、そこへ到達するためのルートは、現場の試行錯誤の中から柔軟に見つけ出し、適応し続ける活動』です。要約すると、‟「うちの組織、これからどっちに向かって進むの?」という方向性を示すコンパス„です。

【経営学の8つのジャンル】

1.マーケティング (Marketing)‟ほったらかしでも売れる仕組みをつくる活動„                                        2.生産管理 (Production)‟いつでも商品がある状態を、ムダなくつくる活動„                                          3.ロジスティクス (Logistics)                                         4.財務・会計 (Accounting & Finance)                                     5.組織・人事管理 (Organization & HRM)‟人間の弱みを仕組みで補い、個人の能力(ポテンシャル)を引き出す活動„                              6.情報管理 (Information)                                          7.経営戦略 (Strategy)‟「うちの組織、これからどっちに向かって進むの?」という方向性を示すコンパス„                                            8.リーダーシップ (Leadership)

 Recipe #25では経営戦略の定義についてチャンドラー、アンゾフ、ミンツバーグ、ドラッカーの4人の定義を引き合いに出して紹介しました。Recipe #26は、「経営戦略は3つのレベルで構成される」というお話です。

目次

経営戦略の3つのレベル(階層)

 「経営戦略」などと言うと、なんだか小難しくてお堅い専門用語に聞こえるかもしれませんが、要するに「うちの組織、これからどっちに向かって進むの?」という方向性を示すコンパスにすぎません。

しかし、ここで多くの会社が陥る致命的な落とし穴があります。それは、「方向性を決める」と言っても、「“何についての”方向性を決めるのか」によって、戦略には3つの明確なレベル(階層)が存在するという事実です。

3つのレベルとは、「全社戦略」「事業戦略」「機能別戦略」のことです。小売り(スーパーとコンビニの2つの事業を経営している会社)の経営を例に、それぞれの階層が持つ「コンパスの役割」を覗いてみましょう。

1. 全社戦略(社長・経営陣レベル)「そもそも、どの山に登るのか?」を決めるコンパス

「うちはスーパーに力を入れるのか? それとも、駅前にコンビニを展開して若年層を取りにいくか? いや、これからは高齢者向けの移動販売ビジネスに予算を全振りすべきだ」 このように、会社全体として「どの事業(戦場)で戦うのか」、そして「限られたお金や人をどこに投資するのか」を決めるのが全社戦略です。一番スケールが大きく、抽象的な方向性ですね。

2. 事業戦略(事業部長レベル)「選んだ戦場で、どう戦うか?」を決めるコンパス

 全社戦略で「よし、駅前にコンビニを出すぞ」と決まったとします。では、目の前にあるセブンイレブンやローソンに、どうやって勝つのか? 「激安のプライベートブランドで価格競争を仕掛けるのか」「手作りの温かいお弁当に特化して品質で勝負するのか」 特定の事業において、顧客に選ばれるための「強み」や「戦い方」を決めるのが事業戦略です。

3. 機能別戦略(現場の各部門・担当者レベル) 「勝つために、自分の持ち場で具体的に何をするか?」を決めるコンパス

事業戦略で「手作り弁当の品質で勝負する」と決まりました。それを受けて、各部門が具体的な作戦を立てます。

仕入れ部門: 「近隣の農家と契約して、朝採れ野菜を確保しよう」                    店舗開発: 「厨房スペースを広く取った店舗レイアウトを作ろう」                    人事部門: 「アルバイトの調理研修マニュアルをアップデートしよう」                  これが機能別戦略です。現場の社員が日々実行する、最も具体的で解像度の高い戦略ですね。

それぞれの階層に与えられたコンパスの範囲を踏み越えてはならない

 経営学の教科書通りなら、この3つのコンパスは上から下へ綺麗に連動するはずです。しかし、ここで階層のコンパス範囲を踏み越えてしまうと問題が生じます。

社長や経営者クラスが、「会社全体をどの方向へ進めるか(全社戦略)」という本来の大きなコンパスを放り出し、「レジ横の商品の並べ方」や「バックヤードの清掃手順」「弁当の作り方の手順」といった現場の『機能別戦略』の領域にズカズカ踏み込んでしまうとどうなるか。担当者から小さなコンパスを奪い取ることになり、現場は「どうせ上が決めるから」と自分で考えることをやめ、組織全体の活力が死んでいくのです。

逆に、事業戦略で「手作り弁当の品質で勝負する」と決まったのなら、現場(機能別戦略)は「厨房スペースを削ってコストを浮かせよう」「調理研修を簡素化しよう」などと、勝手に違う方向へ進んではいけません。現場は上のコンパスを信じ、「自分の持ち場で、どうすればその品質を最高レベルに引き上げ、競合に勝てるか?」という実行部分に集中する。これが正しい戦略の連動です。

それぞれの階層に与えられたコンパスの範囲を踏み越えてはなりません。

Recipe #26:まとめ

 かつて、ビジネスが右肩上がりで未来が予測しやすかった時代、経営の巨匠たちは「すべての戦略は会議室で完璧に計画できる」と信じていました。全社戦略、事業戦略、そして現場の機能別戦略に至るまで、上の人間がすべてを決定し、現場はそれに従うだけの「作業員」でいい。それが正解とされた時代です。

しかし、先が見えない現代において、その古いトップダウンの幻想はとうに崩壊しています。コンパスが指し示す方向は会議室で決めるべきですが、そこへ辿り着くための『ルート』は、現場の試行錯誤の中でしか見つけられません。

それにも関わらず、いまだに「上の人間が現場の隅々までコントロールすべきだ」という古い考えのままの人達がいます。彼らは、自分たちの階層ではない現場の階層に踏み込んでくる。あるいは逆に、現場の人間が上のコンパスを無視して、勝手な方向へ船を漕ぎ出してしまう。これが、組織の歯車を狂わせてしまうのです。

この悲劇を防ぐための絶対ルールはただ1つ。 「それぞれの階層に与えられたコンパスの範囲を踏み越えてはならない」、 「上からの『過剰な介入』も、下からの『勝手な暴走』も許してはならない」ということです。全員が自分の持ち場のコンパスに集中することだけが、組織を前進させるのです。

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