はじめての「組織・人事管理」#3(メタ認知) | Recipe #23

 経営学には8つのジャンル(分類)があります。そのうちの1つが「組織・人事管理」です。 そして組織・人事管理とは『人間の弱みを仕組みで補い、個人の能力(ポテンシャル)を引き出す活動』です。そして組織・人事管理のテーマでもあります。

【経営学の8つのジャンル】

1.マーケティング (Marketing)‟ほったらかしでも売れる仕組みをつくる活動„                                        2.生産管理 (Production)‟いつでも商品がある状態を、ムダなくつくる活動„                                          3.ロジスティクス (Logistics)                                         4.財務・会計 (Accounting & Finance)                                     5.組織・人事管理 (Organization & HRM)‟人間の弱みを仕組みで補い、個人の能力(ポテンシャル)を引き出す活動„                              6.情報管理 (Information)                                          7.経営戦略 (Strategy)                                            8.リーダーシップ (Leadership)

目次

組織の成長を阻む「85%の勘違い」とメタ認知

 組織・人事管理とは『人間の弱みを仕組みで補い、個人の能力(ポテンシャル)を引き出す活動』です。

しかし現実の職場では、この活動を著しく阻害している存在があります。組織心理学者のターシャ・ユーリック博士が指摘した「自分を客観視できていると勘違いしたまま生きている、世の中の約85%の人間(=メタ認知できていない人々)」です。

この85%の人々に、自分の現状をメタ認知させる(「馬鹿の山」から降ろす)方法はたったひとつ。それは、彼らの主観を打ち砕く「質問」を投げかけることです。

ただし、メタ認知させて終わりではありません。自らの無知を自覚(絶望の谷へ落下)させた後は、客観的な基準を与え、「分かっていない」状態から「分かっている」状態へと引き上げるアプローチが必要不可欠なのです。

「馬鹿の山」の85%にメタ認知を促す5つのキラークエスチョン

質問1:【評価基準】から逆算させる聞き方

「あなたの部署にいるスタッフに、『100点(最高評価)』をつけるための、具体的なクリア条件は何ですか?」

「仕事がデキる」という言葉を「100点をつける条件」に言い換えることで、主観を排除させます。「気合いがある」などの曖昧な答えが返ってきたら、「気合いはどうやって測定するんですか?」とさらに詰め込む(操作的定義を要求する)ことができます。答えられなければ、「自分は部下を評価する明確なものさしを持っていない(=メタ認知できていない)」ことになります。

質問2:【比較】で違いをあぶり出す聞き方

「あなたの部署の『普通のスタッフ』と『優秀なスタッフ』を分ける、客観的な【行動】や【数字】の違いは何ですか?」

ただ「優秀な人とは?」と聞くより、差分を聞く方が具体性を引き出しやすくなります。 例えばコンビニの発注担当の場合。『普通の店員』なら、POS上のデータ(1日あたりの販売個数)を把握して発注端末機の操作方法を理解しているレベルです。しかし『優秀なスタッフ』なら、それに加えて「保管可能な在庫量、売り場の陳列可能数、総アイテム数、賞味期限、納品曜日、発注の最小ロット数」まで在庫コントロールに必要な数字をすべて把握し、納品時の片付けや普段の品出しすら「発注業務に関係ある仕事」だと理解しています。 この違いを答えられなければ、やはり明確なものさしを持っていなかったと自覚せざるを得ません。

質問3:【再現性(レシピ化)】を問う質問

「あなたが『自分は仕事がデキる』と自負しているその業務、明日入ってきた新人でも全く同じ成果を出せるように、1から10まで言語化して『レシピ(マニュアル)』に書き出せますか?」

本当に仕事がデキる人(継続の大地にいる人)は、自分の仕事を論理的に分解して操作的定義できているため、他人に教えることができます。しかし勘違いしている人は、「カン」「経験」「気合い」で仕事をしているため絶対に言語化できません。「実は自分が何をやっているか分かっていなかった」と気づかせる最強の質問です。

質問4:【客観的数値への変換】を問う質問

「あなたのその『仕事のデキの良さ』は、会社の利益やコストにおいて、毎月具体的に『どの数字』を『どれくらい』動かしていますか?」

勘違いしている人の多くは、「残業して頑張っている」「上司に怒られないよう上手くやっている」という『主観的な苦労』を仕事がデキると履き違えています。数字で証明させることで、自分の仕事がいかに会社の利益と直結していない「ただの作業」だったのかを痛感させることができます。

質問5:【身近なビジネス用語の理解】を問う質問

「マーケティングとは何ですか?」「ニーズとは何ですか?」

よく聞く言葉ですが、ドラッカーや日本マーケティング協会(JMA)の定義レベルで正確に答えられる人は、多く見積もっても10%未満でしょう。「よく分かっていないこと」をメタ認知してもらうのに打ってつけの質問です。

【重要:操作的定義とは】 「どうやって測るか」という手順書のことです。ある概念を、測定可能な『手続き(操作)』によって定義し、「誰がやっても同じ結果が出る判定基準」を作ります。 (例:「空腹とは、最後に食事をしてから12時間が経過した状態である」⇒これなら誰でも正確に判定できます) 主観的な「気持ち」や「イメージ」を、客観的な「数字」や「行動」に置き換えるのが最大の特徴です。

メタ認知の後にインストールすべき「4つの必須知識」

 質問によって「自分は何も分かっていなかった」とメタ認知(絶望)できたら、次は正しい知識を頭に入れるフェーズです。人事管理において絶対に避けて通れない「人間の脳のバグ(弱み)」を示す4つの基礎知識を優先的にインストールしてください。

① ピーターの法則(階層社会の悲劇) 「能力主義の組織において、人は自身の『無能になるレベル』まで出世し、やがて組織は無能な人間で埋め尽くされる」という法則。現場の作業がデキる人をそのままマネージャーに昇進させても高確率で失敗します。プレイヤーとマネージャーでは「求められる能力(ものさし)」が全く違うという前提を知る必要があります。

② ダニング・クルーガー効果(馬鹿の山) 「能力の低い人ほど、自分を過大評価して客観的な実力に気づけない」という現象。「部下が自ら気づいてくれるだろう」という期待は裏切られます。だからこそ、誰が見ても分かる客観的な数字やレシピでの指導が不可欠です。

③ 認知のけち(思考のサボり) 脳はエネルギーの消費を嫌がり、深く考えることを放棄して手っ取り早く答えを出そうとします。「仕事がデキるとは何か?」を気合いなどの精神論で片付けようとするのはこの発動です。マネージャーは思考をサボらず、業務を「操作的定義」する責任があります。

④ 人間はバイアス(偏見・思い込み)まみれ 「自分の感覚は正しい」という脳のエラー。人事評価において人間の「主観」ほど当てにならないものはありません。自分のお気に入り等を高く評価してしまうバイアスから逃れるためには、主観を排除した明確なクリア条件(仕組み)を作るしかありません。

「4つの必須知識」をインストールした後にやるべきこと

 「4つの必須知識」を頭にインストールしたら、今度は「仕事がデキるとはどういうことか?」を、皆さんの会社やお店の現場に合わせて具体的に煮詰めていってください。「仕事がデキる」の基準は、職種や企業によって全く異なります。

例えば、先ほどのコンビニの発注担当者であれば、「発注担当者=在庫コントロール担当者」です。したがって、「在庫全体を適切にコントロールできていれば『仕事がデキる』、できていなければ『仕事がデキていない』」と、会社やお店の基準として明確に「操作的定義」をするのです。

そして、この仕組みづくり(マネジメント)の本質をさらに深く理解し、自らの血肉とするために、経営学の名著であるピーター・ドラッカーの『マネジメント』を繰り返し読み込むことを強くお勧めします。

まとめ:「人」を変えるな、「仕組み(レシピ)」で勝て

 この4つの知識を頭に入れると、一つの残酷な真実にたどり着きます。 それは、「人間は放っておけば必ず勘違いし、思考をサボり、主観で他人を評価して組織を腐らせる生き物である」ということです。

組織・人事管理において最も避けるべき罠は、この「人間の脳のバグ」を精神論や説教で直そうとすることです。今回ご紹介した5つの質問と4つの知識は、決して部下を論破して傷つけるためのものではありません。自分も含めた全員を「馬鹿の山」から降ろし、誰もが正しく現在地を測れる『客観的なものさし(操作的定義)』を手渡すための、マネージャーとしての愛ある劇薬なのです。

世の中の9割の企業が、「気合い」や「言われなくても動くこと」といった主観的な評価基準にすがり、ピーターの法則やバイアスの罠にハマって自滅していきます。 逆に言えば、人間の残酷な真実を前提とし、その弱みを無効化する『仕組み』を構築できた組織だけが、他社に対して圧倒的な競争優位に立つことは想像に難くありません。

「仕事がデキるとはどういうことか?」 明日から、この問いに対する答えは個人の感覚ではなく、「数字と行動のレシピ」で語りましょう。そこからが、真の「組織・人事管理」のスタートです。

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